宮崎県水産ブランド品 「五ケ瀬やまめ」

禁・無断転載

やまめの里の養殖マニュアル

2006年9月 やまめの里 秋本治


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1.親魚養成
 親魚養成の重要なポイントを月を追って記載します。
6月.
親魚候補の1次選別
 親魚候補は、6月に当歳ものの成長のよい魚群の中から30g前後のものを選別して30.000尾(900kg)確保、稚魚池下段(30uの池)NO1からNO9まで各100kgづつ9池に収容します。
 飼育用水は、谷水と湧水を混合したものを使用します。親魚候補の池を稚魚池下段とする意味は、濁水の時湧水に切りかえられる事と台風等の災害に対して最も安全な場所の池であるからです。

9月下旬〜10月上旬
親魚候補の2次選別(早熟魚の排除)
 当歳ものでも大型魚は9月下旬から成熟はじめるものが出ます。特に当歳ものの雄の成熟魚は越年できないのがいるので親魚候補の中から著しく婚姻色の出ている魚は選別して取り除きます。

11月下旬〜12月上旬
親魚候補の3次選別と湧水池への移動
 上記の親魚候補は、11月下旬から100g以下の小型魚は選別して販売用に廻し、20.000尾程度を親魚として移動し、全体で25.000尾以上確保するようにします。

翌年5月下旬〜6月上旬
親魚候補の4次選別と河川水への移動
 5月下旬〜6月上旬に親魚池に移し替えます。親魚池は、NO112〜NO121の10池とします。搬送の時に選別を行ない親魚候補の魚体重は300g以上とし、各池に1.500尾(約450〜500kg)づつ収容し15.000尾確保します。300g以下の小型魚はNO123以上の円形池に親魚予備群として収容します。

8月下旬〜9月
@選別籠と掬い網の点検
 大型に育った親魚の選別に使う選別籠と掬い網を点検しておきます。選別籠の錆びた部分には赤の水性ペイントを刷毛でしっかり塗りましょう。表面がペンキによりすべすべとなれば魚の皮膚に傷がつきにくくなります。掬い網が破れているものは糸で修理し、破れがひどいものは新調しておきます。この場合掬い網は水色か黒を選びます。赤色は魚が逃げてしまうのでうまく掬うことができず作業効率が低下します。
 魚の皮膚は粘液で覆われて保護されていますが、錆びた籠に入れたり破れた網で掬いますとこの粘液を剥がしてしまいます。粘液が剥がされ傷ついた皮膚には水生菌(かび)が着生します。水生菌に冒された魚はやがて死んでいきます。

A孵化槽の補修
 孵化槽のペンキがはがれている部分は青の水性ペイント(セメント瓦、コンクリート用)で直しておきます。塗布する面の汚れを取り去り、ペイントは水を少し加えて二回ほど塗ればよいでしょう。
 排水の金網も木枠が弱っているものは造り直します。網は目合いの径がやまめ用4.5ミリ程度、いわなは3ミリ以下とします。

B孵化盆の補修
 孵化盆は全部を点検し、木枠の弱くなったものは造り直します。当社の場合竪型で、孵化盆の数は450万粒孵化の場合、孵化盆1枚に付2500粒収容で1800枚必要です。
 孵化盆のサイズは、深さ3センチにします。卵は一枚の孵化盆に一段並んで約1500粒です。2500粒収容で2段重なることになりますが、実際は偏った場合3段の部分もできます。このため卵径4〜5ミリで3段重なった場合は、5ミリ×3段で1.5センチになります。孵化の場合、卵の体積と同等以上の水中空間が必要ですから盆の深さは3センチということになります。
 孵化盆の網は、目合いが3ミリ程度、1メッシュあたり14にします。防虫網などあまりにも目合いの小さな網は水流に目詰まりをおこし卵や孵化稚魚の窒息を引き起こします。

9月上旬
@雄雌の選別
 雌雄の選別を行ない雌雄別々の池に収容します。親魚の最終数量は雌10.000尾、雄2.000尾とします。親魚のサイズは、1kg前後あるいはそれ以上とし、残りは円形池に収容して成熟が進まないように電照します。電照池は刺身用として販売、販売見込み数量以上の分は成熟が進んでさびない内に早急にフィレにして冷凍し以後冷薫として加工販売します。

A選別要領
選別は、先ず、仕切り網を排水側から下して入れ、魚が水底や両壁から抜け出ないように注意しながら静かに注水口に向かってゆっくり押して移動させます。
注水口から3〜4メートル付近、魚の密度が高くなったところで仕切り網をしっかり固定します。
・仕切り網で寄せた親魚を選別籠ですくいます。
・かごに一度にたくさんの魚を入れないようにします。親魚の選別は、早さを競う仕事ではありません。
・魚は、選別かごの底が見える程度に入れましょう。魚が幾重にも重なり合うほど入れてしまえば魚に大きな負担がかかります。また、籠から飛び出てしまいます。これは大変な圧力やストレスを与えることになり、魚にダメージを与えることになります。
・掬い網で掬う時は一回に3尾程度ずつ掬ってください。あまりにも多くの魚を一度に掬い上げると、卵を孕(はら)んだ身重な魚は、大きな圧力が掛かりダメージを受けてしまいます。
・選別籠の魚を両手で柔らかく掴むと雄は体が固く、頭が咎って鼻曲がりとなり、体が偏平です。雌は魚体がふっくらとして丸みをおび柔らかく感じます。どちらともつかないものは、ひとまず雌の魚群に入れておきましょう。
・選別した魚は、1尾ずつ両手で軽く抱えるようにしてそれぞれ雌雄の蓄用籠に入れます。
・蓄用籠の密度が高くなったらそれぞれ用意した池へ運びます。この時、蓄用籠から掬う時に尾数を数えながら輸送タンクに移して運びます。ここでも、1度に多くの魚を掬わないように、3尾程度づつ掬うようにしましょう。

B.窒息に注意
 選別作業の際、その周辺の池の水が十分に動いているか注意しましょう。水の中で行っていてもそこを水が通り抜けていなければその水中は酸欠状態になります。特に日中の水温が高い時(15℃以上)や円形の池では注意しましょう。水位を落した円形池では、注水口の反対側は止水状態になります。

9月下旬〜10月
熟度の鑑別
 9月下旬から給餌を止めて成熟度の観察を続け、成熟したら採卵します。年によって成熟期が早かったり遅かったりします。これまで早い年では9月末から採卵した経験がありますが、概ね10月7〜8日頃から始まります。
 順調に行けば採卵数は一千万粒を超えます。内自家用孵化の活卵450万、活卵出荷用450万、残り余剰分は食用卵として加工します。その年の活卵の注文数によって食卵製造量を調整します。


10月
塾度鑑別(じゅくどかんべつ)
@.雌雄選別と同様に、仕切り網を排水側から入れて魚が抜け出ないように注意しながら仕切り網を注水口近くまで移動します。
・仕切り網でまとめた親魚を選別籠ですくいます。
・かごに一度にたくさんの魚を入れないように。
A.ゆっくりと慎重に鑑別する。
・選別かごの中で魚のお腹を触って判断します。魚が暴れている時は、お腹にも力をいれていますので判断できません。魚がおだやかにおちついてから触診しましょう。暴れる魚を手で強く締めつけたり押さえつけたりしないでください。
・魚がおとなしくなった瞬間に手で魚の腹部の真ん中当たりを親指と人指し指で軽くはさみ、さすってみます。完熟した雌は腹腔の中にまるで水が入っているようにやわらかくくぼみ、腹腔の中で卵がばらばらになっている感触が指に伝わります。これが完熟した魚です。
・完熟していない魚は、腹部が固いのですぐにわかります。この作業を丁寧に確実に行って仕分けてください。手袋では指の感覚がありませんので着用しないでください。けっして作業が早ければよいものではありません。2年間手塩にかけて大事に育てたやまめです。未熟卵の親魚が混入していれば間違って包丁を入れて殺してしまうことになります。慎重に進めましょう。

3.採卵の準備
始める前に点検を
@.卵が直射光線に当たらないように。
 卵は直射光線にあててはいけません。午前中当たらないからと安心して作業をはじめたら午後の夕日が射し込みはじめることがあります。また、風でチラチラ日が入ることもあります。万全かどうかもう一度点検しましょう。
A.受精用の用水は濁りのない流水を
 受精用の水は、卵の中に精子と共に進入する水です。濁りのない新しい水を使いましょう。
B.採卵器具の準備
採卵台、3分計の砂時計、受精用のボール、採精用のボール、卵受け網(孵化盆)、卵の吸水用水槽、卵収容のかご、等調液調合のための上皿天秤、等調液の材料、器具消毒用のイソジン液、魚つかみ用の布、包丁、ピンセットなどです。採卵作業前にしっかり点検をしましょう。
C.等調液の調合
正確に計量する。
・等調液は、採卵した卵に血液などが混入していれば受精を妨げるのでこれらの異物を受精前に洗浄するための液体です。基本的には生理食塩水で人間に点滴するリンゲル液と同じようなもので魚の腹腔内の体液と同じ比重です。
・定められた通りに正確に計量しましょう。
・等調液は、清水50リットルに、食塩452グラム、塩化カリュウム12グラム、塩化カルシウム13グラムを入れてよく攪拌します。
・等調液は、採卵の都度つくりましょう。
・出来上がった等調液は、消毒液がかからないように覆いや蓋をきっちりしておきましょう。

4.採精
温度と太陽光と水滴に注意
@.雄は、完熟した雄を使いましょう。完熟した雄は、婚姻色があざやかにでています。婚姻色とは、体色が赤くなることです。概ね水生菌に冒されています。その症状が著しくでている固体から順に採精しましょう。その中で肉質がすでに硬化している雄や体型が変形している雄は使用しないでください。
A.雄はバケツの中など狭いところに長く泳がせていれば、暴れて自然に放精してしまいます。採精用に選別した雄は直ちに採卵場に運び広い蓄用籠に収容しましょう。
B.採精で最も気を付けなければならないことは、採集した精液に水滴が入らないように作業を行うことです。魚の精液は、水を加えた瞬間に活動を開始し、数十秒後には死滅します。
C.まず、用意した雄をすくい上げ、スポンジを敷いた選別籠の中に入れます。
D.採精者は雄の尾ビレを掴み体を乾いた布でよくふきあげて、待機したもう一人に乾いた布で頭を掴んでもらい、採精台の上にかざし絞りだします。
E.精液を受ける容器には異物の混入を防ぐため網をかけて採精します。
F.採精は、採卵の直前に行いましょう。採精から時間がたつほど状態は悪くなります。
G.採精した精液は、水が混入しないように開口部をラップしておきましょう。
H.採卵が一時間以上に及びそうな時は、別のボールに水を入れて池の水温より2〜3度低めになるように氷を入れ、その上に採精したボールを浮かべておきまましょう。
I.採卵時間が長くなり、高温の時は、途中で氷を少し足してください。また、氷をあまりにも多くいれますと低温過ぎて精子の動きが緩慢になりますので注意が必要です。
J.採精した精液の置き場所に注意しましょう。採卵台や器具をイソジンで消毒する際に、精液に消毒液がかかる事故があります。消毒液が少量でも降りかかると、採卵した卵がすべてが無精卵になります。

5.採卵
時間と水滴に気配りを
@採卵台と器具の消毒
 さて、等調液、精液、完熟雌魚の運び込み等の準備が完了したらいよいよ採卵に取りかかりますが、その前に採卵台、卵受け盆、などの消毒をしましょう。卵消毒の濃度のイソジン液を霧吹きで吹きかけてください。その際、等調液や精液にかからないように慎重におこないましょう。消毒後は、きれいな水をかけて洗浄しましょう。
A当社の採卵受精方式は乾導法です。まず、軟らかいスポンジを敷きつめた選別かごに雌を数尾ずつ入れ水分を取り去ります。
B次に、採卵者は布を持って布ごしに左手(利き腕ではない方の手)で魚の尾部をつかみ、もう一方の手で頭を持ち、採卵台の箱の中につりあう大きさの箱の穴を選んで頭を差し込みます。布を使うのは、手から魚が滑り落ちないようにするためともう一つは、魚体の水分を拭き取るためです。採卵した卵に次の魚の水滴が落ちないように布で水分を拭き取ってから採卵台に運びます。
C.包丁を入れる前に魚のお腹を触ってみてください。もし、腹の感触が固いようであれば、入念に塾度を鑑別し直してください。未熟卵の雌魚の混入が発見されたらその魚は直ちに親魚池に放養しましょう。この確認をすることにより貴重な親魚の無駄を無くすことができます。包丁を入れた後、卵が固くて飛び出さず「しまった」といっても手遅れです。一尾一尾入念に行いましょう。また、包丁を入れるとき、箱の穴にうまく魚の頭を入れて固定できるかも確認してください。大きな箱に小さな魚を入れたり、頭の先だけを少し入れていたりすると、包丁で切り込みを入れた時、魚は暴れて箱から外れ、あたり一面に卵をまきちらしてしまいます。
D一度の採卵時間は三分以内に終わるように砂時計をセットして一斉にはじめます。包丁は、肛門から入れて胸ヒレの高さまで腹の真ん中を一気に裂きます。この時に大部分の卵は落下して卵受盆にたまりますが、胸ヒレ近くに少量の卵が残ります。包丁を台の上に置いて、指を胃袋の付け根まで入れて揺すってください。すると残った卵が落下します。取り残しのないように採卵しましょう。
E.三分たったら採卵台の各卵受盆ごとに卵の上からジョロで等調液をかけて血液や内臓、糞などを除去します。その後きれいになった卵は一つの大きめのボールにまとめ、精液をスプーンで2杯位ふりかけ、卵全体に均等に精液が行き渡るようかきまぜた後ボールを水中に押し込み、水を加えます。この時卵は受精します。一回に使う精液の量は、雌20尾に対して雄3尾程度の量になります。
F.水を加えたら約15秒ほどそのままの状態を保ちます。その後静かにボールを傾けて水をこぼします。この時、卵がボールから流れ出さないように慎重に行いましょう。
G次に再びボールを水中に押し込み水を加え、卵が落ち着いて静かになったところでボールを傾けて水を出します。これを数回繰り返し、卵の周囲から異物を取り除いてから、卵を寝かせる籠にそーっと移します。卵を寝かせる籠の入っている桶には絶えず濁りのないよい清水が流れ込むように気を付けましょう。卵はこの籠の中で吸水硬化します。この時、直射光線が入っていないか再度確認してください。
H水を加えて受精した直後の卵は、ぐにゃぐにゃした感じでボールや周囲の物体にくっつきます。これは卵全体の表面から吸水しているためと考えられます。水を加えた途端精子は活発に活動をはじめ、卵は吸水して受精を促進させます。これにより卵の体積は20%ほど大きくなり硬化します。吸水硬化の時間は約30分ほどで完了すると思われます。それまでしずかに籠のなかに寝かせて起きましょう。
I受精後1時間ほどで孵化盆に収容します。孵化盆の収容量は、卵が2段に重なる程度とします。一部盆の中央は3段になる場合があります。この時あまりにも中央がくぼむ盆は、網の張り方が弱くなっているためです。こうした孵化盆は外して、後から修理した後使用するようにしてください。吸水硬化した後の卵は時間の経過と共に卵黄膜がとても弱くなります。孵化盆に移す時は、卵にショックを与えないように静かに注意しながら作業をしなければなりません。もし、手荒く取り扱った場合は、卵は白濁して死んでしまいます。
※受精後は、なぜ卵を動かしてはいけない?
J.受精後は、生命体として細胞の増殖がはじまります。生命は先ず、地球の地磁気を感じて耳石が出現することから始まるといわれます。私は、耳石が発生する前に卵は地球の重力を感じて天地を決めることから始めるのではないかと考えます。それは図のように卵黄に比重の軽い油球が存在するからです。
 卵殻と卵黄膜の隙間には囲卵腔液があり、この囲卵腔液がヒトの子宮の羊水のような働きをして絶えず油球の位置が上部になるよう回転します。
 このように天地の位置を決定してから細胞分裂がはじまると思われますが、卵の細胞の発生途中で卵を動かしますと油球は再び回転をはじめて天地が入れ替わり、細胞分裂に故障が生じると思われます。
 ちなみに死卵が白くなるのは、卵黄膜が破れて卵黄と囲卵腔液が混ざり、アルブミンという物質が白く凝固するからです。強い水流などで発生途中の卵が動いて天地が変わると、再び油球が回転して卵黄膜が破れるからでしょう。白く凝固したアルブミンは食塩水を加えると溶解して白色は消えますが細胞は死滅しています。

6.孵化槽収容と消毒の方法
卵に衝撃を与えないように孵化槽で消毒 採卵受精後は、時間の経過とともに卵は衝撃に弱くなります。孵化盆に収容した後、採卵場から孵化場までの移動は孵化盆の中の卵が動かないように卵に絞った布を被せて慎重に運びます。特に孵化盆を水平に保つようにすることが大切です。
 孵化盆結束には、ビニールテープ等は、気泡が発生するので0.9ミリの銅線を使います。
@.孵化場に搬入する以前に、孵化槽の1仕切りの水の体積を計算しておきます。
A.次に、その水の体積に対してイソジン液の分量を計算します。濃度は一度計算しておけば、後はイソジン液を1仕切り分づつ別の容器にいれて準備しておけば使用に際して便利です。
B孵化槽に流入している水を止めます。
C必要な分だけ1仕切りづつ、定めた量のイソジン液を入れます。
D手で孵化槽内をかきまぜます。
E手を浸けて透明度を確認します。(計算や計量の錯誤を防ぐため)
F卵を収容して結束した孵化盆を静かに静かに卵が踊らないようにそーっと沈めます。
G孵化盆が浮き上がらないように抑えて孵化盆の周囲にスポンジを突き固めます
。H所定の時間そのままにして置き、時間がきたら水を再び注水します。以上で孵化槽の中で発眼まで待ちます。尚、毎日決まった時間に水温を記録します。

7.孵化槽での毎日の管理
水量調整
@水量は、孵化盆の卵が踊らない程度に水流を調整します。あまりにも水量が少なければ卵は窒息しますし、水量が多過ぎれば、卵は踊って死んでしまいます。ただし、孵化盆の一部で多少卵が動いても、回転しなければ大丈夫です。
A孵化場用水は、孵化までは湧き水だけを使用した方が良いでしょう。谷川の水は、雨の時濁る恐れがあります。濁りに伴うゴミは、孵化槽の底から流入して孵化盆の網の目詰まりを引き起こし、孵化盆内の水流を片寄らせてしまいます。湧き水だけであっても孵化槽への注水口に網を張り、風と飛んできた木の葉やゴミをここで取り去るようにします。
B.孵化盆の回りに詰めたスポンジは、時間の経過とともにゆるくなる事があります。毎日水流を点検し、ゆるくなったスポンジは再度突固めて水流の調整をはかりましょう。
C.孵化盆の金網に気泡がたまったら軽く孵化盆を叩いて気泡を出します。気泡が大きくまとまったら気泡が出るとき大きな衝撃を卵に与えてしまいますから注意しましょう。

D活卵の水生菌対策
 孵化槽に収容した卵から死卵が発生するとすぐ水生菌(水カビ)が付着します。採卵始めの頃は水生菌の発生はゆっくりですが、採卵の最盛期になると急に水生菌の発生が早くなります。水生菌は当初死卵に取りつきますが、やがて周囲の健康な卵にも広がり、つぎつぎと増殖してたくさんの卵を包んで団子状にして卵を殺してしまいます。
 このために、孵化槽に収容した翌日から卵の消毒を行います。以前はマラカイトグリーンを使っていましたが、2005年より使用が禁止されましたので、魚卵消毒薬として
20054月に承認されたパイセス(ブロノポール50%含有:ノバルティス アニマルワクチン社製)を使用します。
 消毒方法は、孵化槽の体積が400リットルあることから、農業用のポリタンクに400リットルの孵化用水を入れ、これに40mlのパイセスを加えてよく攪拌し、毎分10リットル送水する水中ポンプで孵化槽の注水口に薬液を注入、この間、孵化用水の注水を止めて40分の薬浴を1日一回行います。


8.発眼と検卵
〇受精卵は、積算温度約200°Cで発眼し、約400°Cで孵化を始めます。約がつくのは、日中の水温の変化と光の加減で異なるからです。積算温度は検温した時間が高温の時間帯か低温の時間帯かによって異なります。この点湧き水であればやや正確に温度が計算できます。また、収容した卵は暗いところでは、発生が遅く魚体が大きい、明るいところでは、発生が早く魚体が小さいといわれます。魚体は大きいほど歩留りはよくなります。
〇積算温度約200°Cでは、まだ卵内に血管がみえる程度で眼は確認できない固体があります。したがって200°Cでの検卵は、難しく、はっきり発眼するまでは卵も弱いので、発眼の確認をするに留め、250°C〜350°Cの間に行います。
〇検卵は、孵化盆を孵化槽から取り上げて、孵化槽の下流の孵化盆を収容しないスペースの水中に網を敷いて孵化盆から網の中に卵を戻し、白濁した死卵と無精卵をピンセットであらかた取り除きます。死卵は文字どおり白く、無精卵は卵の中に眼点が無く透明になっています。死卵が多い場合は孵化盆のままで検卵してから網の中へ移します。無精卵が多い場合は、孵化盆から直接網の中へどぼどぼと落とし衝撃を与えます。しばらくすると無精卵は白く変色しますので検卵が容易になります。これまでの管理のよしあしの成果が死卵の数や無精卵の数によって証明されることになります。
〇その後、今度は、1枚の孵化盆に対して200gづつ計量して卵を収容しなおします。孵化のため孵化盆の密度を少なくすることと数量を把握する必要があるからです。サンプルとして1枚の孵化盆の卵数を数えて記録します。こうすることによって正確な孵化の尾数を把握できます。孵化槽に収容したら再び水生菌が付着しないようにパイセスで消毒を続けます。

〇検卵中は、水から上げられますが、卵が乾いたり、卵の温度が水温より高くならないように取扱には注意してください。一度に多量の卵を取り上げて空中に放置しないでください。
〇一方出荷用の卵は、検卵が終わると孵化盆以外の網に入れて出荷日を待ちます。この場合、卵の中を水が通り抜けるように水流の調節を行います。長くストックはできません。2〜3日以内に出荷します。

9.発眼卵の出荷
サンプルから数量を割り出す
〇1粒当たりの卵重は、親魚の大きさによって変わりますので、出荷予定の卵群からは200粒程度を数えてサンプルをつくり、正確に卵重を秤ります。卵が大きい卵群は概ね1kgで10,000粒ですが、小振りな卵群では、900gで10,000粒あります。
〇卵重を割り出したら、別途容易した晒の袋を水に浸して強く絞り、この中に10,000粒づつ計量して詰め、輪ゴムで口を止めます。この場合、晒にあまりにも水分が多ければ晒の小さな目を水の膜で閉ざしてしまい、中の卵が窒息します。少し水分の残る程度に固く絞ります。現在では、穴の空いたポリ袋を使います。
〇次に発砲スチロールの底に氷を砕いてビニール袋に詰めて敷き、その上にスポンジを敷いて卵の入った袋を並べます。卵袋の空間にはスポンジを詰めます。1箱に50,000粒収容できます。あまりにも低温の氷がじかに卵に接触すると卵は凍って死滅しますので注意が必要です。冷凍室から取り出したばかりの氷は危険です。
〇輸送容器には送り状を添付し、採卵月日と出荷日までの積算温度、卵重と卵数その他所定の様式にしたがって記入します。
〇輸送方法は、宅急便のクール便(冷凍ではない冷蔵便)で活卵の表示と取扱注意の表示を付けて発送します。
〇誤配や遅配を無くすため、届け先や受取先を再度確認して発送しましょう。

10.孵化の作業
水量調整がポイント
〇発眼卵が積算温度400°Cを超えたら孵化がはじまります。卵が孵化したら酸素要求量が増加しますので、水量を増やします。といってもやたらと水量を増やすと孵化盆の網の目から孵化稚魚の尾が押し出されたり、お腹のサイノウ(袋)が水圧で破けて死んでしまいます。よく観察しながら孵化稚魚が水圧の影響を受けない程度の最大を注水しましょう。
〇孵化が始まると水量が要求されると同時に卵殻が孵化盆中に浮遊して孵化盆の網の目詰まりをおこし、水流を妨げます。このため1日に数回孵化盆をトントンとつついて卵殻の流出を助けます。この為、発眼卵からは孵化盆の卵の収容数を少なくするのです。
〇積算温度650°C以上になるとサイノウの栄養分が吸収されて魚の姿になります。これを浮上稚魚といいます。孵化盆の中を観察しながら、多少お腹が膨れ気味でも、黒い色素が魚全体に沈着していれば、孵化盆から出して、餌づけ用の水槽に移します。
〇はじめは、水底にへばりついていますが、しばらくすると水中で泳ぐようになります。この時、餌づけ用の水槽に余裕があれば、浮上した稚魚を移してそこで餌づけを行います。余裕がない場合は、約3割りほど浮上した時点で餌づけを開始します。
〇餌づけは、1日に10回以上行います。排水の金網のところが高密度になっていれば密度が高すぎるので他の池へ広げていきます。排水の金網は毎朝夕掃除します。
〇餌づけの時点から湧き水に河川水を混ぜます。湧き水は、イオンカルシウムが22ppmもあるため、エラ呼吸に負担がかかり、エラ病をおこし易いからです。
〇餌を十分食べるようになると給餌は一日3回程度にし、更に朝夕の2回にして給餌間隔を長くしていきます。魚は餌を摂るようになると瞬く間に成長して高密度になります。先手先手と早め早めに池替えをして戸外の池へ出し、密度を薄めていきましょう。
〇飼料も早め早めに粒子の大きいサイズへと切り換えていき、魚も不揃いにならないように早め早めに選別します。

11.イワナの採卵
手荒に扱わない
〇ヤマメの親魚は、採卵後は死んでしまいますので切開採卵が効率的ですが、イワナは、多回産卵しますので、採卵後も大切な親魚として更にもう1年飼育することになります。この為イワナは切開せずに搾出採卵を行います。ヤマメにもまして手荒な取扱を嫌います。
〇イワナの場合は、雄の精液が薄いので事前に採精して置くと受精率が低下します。このため、採卵後直接卵の上で雄の精液を絞りかけます。その他はヤマメの採卵に準じて行います。
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